「えらい」はいい言葉でしょうか?/日本語ラーニングサポートLLC

皆さんは「えらい」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
「日本語を毎日勉強していてえらいですね」
「今日もお弁当作ってきたんですか、えらいですね」
こんな一言を耳にしたことのある方も多いかと思います。
「えらい」というのは誉め言葉として使われることが多いものです。
しかしこの「えらい」という言葉、実は使い方によって様々な意味を持つ言葉なのです。
今回はそんな「えらい」の意味を考えてみましょう。
目次
まずは冒頭の例文にて使われていた「偉い(えらい)」という言葉の意味を考えてみましょう。
山田「リンさんは最近日本語がとても上手になったよね。」
リン「今でも毎日1時間は勉強するようにしているんです。」
山田「仕事もしながら毎日勉強しているなんて、ほんとうに偉いね。」
上の会話で山田くんが言った「えらい」という言葉には、リンさんのしていることに対して「すごいと思っている」「感心している」という山田くんの気持ちが表されています。このように、相手に対して「素晴らしい行いをしている」と感じた時や感心した気持ちを伝えたいときに「えらい」という言葉を使います。
例)
・娘「おもちゃ全部しまったよ!」
母「一人で片づけられたの、えらいね。それじゃ、おやつにしようか。」
・優子「今度仕事のために資格試験を受けようと思うの。」
兄「就職してからも努力しててえらいな、優子は。」
・川田「山本さんの息子さん、まだ5歳なのに私たちにもちゃんと挨拶をしてくれるのよね。」
リン「それに、電車や図書館ではちゃんと静かにしていられるそうですよ。まだ子どもなのにえらいですよね。」
ただし、相手の行いを評価する言い方であるため、目上の人に使うと失礼になったり、相手を不愉快な気持ちにさせてしまったりすることがあるので注意しましょう。上司など目上の人には「ご立派です」「尊敬いたします」「見習いたいです」などの言葉に変えて使うと失礼にならず相手を褒めることができますよ。
例)×課長は取引先の人の趣味を聞いて、それについてよく調べたり勉強したりするそうでえらいですね。
→〇課長は取引先の人の趣味を聞いて、それについてよく調べたり勉強したりされるとか。本当に尊敬します。
さて、1では「えらい」というのは相手の行動に対して感心した時やすごいと思ったときのほめ言葉であるとご紹介しました。では、次のような場面ではどうでしょうか?
リン「田中くん、シャツの袖が汚れているよ。」
田中「あ、本当だ。気付かなかったよ、ありがとう。」
山田「今日は午後から偉い人がくるんだから、服装には気をつけておかないとな。」
さて、山田くんの言っていた「偉い人」とはどんな人でしょうか?
実は「えらい」には先ほどの意味ともうひとつ、「社会的な地位や身分が高い」という意味があります。つまり山田くんは、彼らより会社での立場が高い人、つまり社長や専務、取引先の重役などのことを言っていたのです。
ちなみにこの使われ方には1でご紹介した「人としての行動や性格のすばらしさ」は特に関係がありません。ですから「社員皆に嫌われている偉い人」とか「ぜんぜん仕事をしない上に会社のお金を全部自分のものにしようとする偉い人」みたいな人もいるわけです。人の上に立つような立場の高い人は性格も「えらい」人であってほしいものですね。
☆「偉い人」と見た目が非常に似た言葉に「偉人(いじん)」という言葉があります。文字だけを見ると「えらいひと」なわけですが、その意味は「性格や行動が素晴らしい人」でも「地位が高い人」でもなく、「世の中のためになるような優れた仕事を成し遂げた人、歴史的に大きな功績を残した人」という意味で使われます。「素晴らしい行動」のスケールが社会や世界の人々に影響を与えるくらい大きくなった場合、と考えてみても面白いかもしれません。例えば多くの発明品を生み出したトーマス・エジソンや今でも多くの人の心をひきつける絵をかいたパブロ・ピカソ、社会福祉の活動に尽力したヘレン・ケラーなど、大きなことを成し遂げて多くの人から尊敬される人々のことを「偉人(いじん)」と呼ぶのです。
さて、ここまでの「えらい」の使い方を見てみると、「素晴らしい行動」「立場が高い」など全体的にポジティブなイメージを持つ言葉であることが分かりますね。ただし、使い方によってはほめ言葉とは真逆の意味で使われることもあるのです。こちらも簡単な会話を見てみましょう。
田中「はあ、昨日の飲み会は本当に疲れた…。」
リン「確か営業部の先輩たちとの飲み会だったんだよね。」
山田「うわあ、僕もあの人たち苦手だなあ。いつも偉そうに説教してくるんだ。」
さて、ここで山田くんが言った「偉そう」という言葉、会話の文脈からしてあまり良い意味ではなさそうですね。「偉そう」というのは、(実際にはそんなに偉くないのに)必要以上に自分が偉い人であるかのようにふるまったり、いばったりする様子を表します。山田くんたちが苦手な営業部の先輩は、それほど素晴らしい仕事もしておらず立場も高くないのに、必要以上に山田くんたちを下に見るような態度をとったり説教をしたりしている状態であるということです。
例)
・新しい課長はいつも偉そうな態度で部下から嫌われていたが、この前部長から注意されたようで最近は少し部下にやさしくなった。
・山田「田中は人見知りだよな。そんなんじゃ結婚できないぞ。」
田中「偉そうに言ってるけど、山田だって初対面の人と話す時は緊張で顔が真っ赤になるじゃないか。」
さて、今回は「えらい」という言葉について考えてみました。基本的な意味としては
・素晴らしい行動をした人への感心を表すほめ言葉
・社会的な立場が高い人を表す言葉
となり、少し形が変わると
偉人(いじん):歴史的に多くの人に尊敬されるような大きな仕事を成し遂げた人
偉そう/偉ぶっている:本当は偉くないのにいばっていて態度の大きい人
という意味にもなります。「えらい」と「えらそう」ではほぼ正反対の状態を表すことになってしまうので注意が必要ですね。
また、「えらい」は上記の他にも「程度が大きい」とか「大変だ」ということを表す場合にも使われます。
例)
・きのうまで暖かかったのに、今日はえらく寒いな。(=とても/かなり寒い)
・今朝も通勤ラッシュで電車はえらい混雑だったよ。(=とても混んでいた)
・困ったな…僕のミスでえらいことになってしまった。(=大変なことになった) など
余裕のある方はぜひこの使い方も覚えてみてくださいね。
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