日本語を外国人に教えることを始めましょう vol.1 / 日本語ラーニングサポートLLC

日本語を外国人に教えることを始めましょう。
今回は日本語ティーチングのための記事の第一回です。
最初の一歩はここから始めましょう。
実践の前には〈教師の準備〉として同シリーズのvol.0を必ずお読みくださいね。↓
日本語の教え方、外国人に日本語を話してもらおう Vol.1〈外国語を教える前に〉/ 日本語ラーニングサポートLLC
外国人の前に座ったら、日本人の誰しもが日本語の教師です。
外国語として日本語を教えるにあたっての最低限必要なポイントと心構えを解説しています。
様々なバックグラウンドをお持ちの海外の方に、どのように私たちの話す言葉を勉強してもらったら良いのでしょうか。
このブログのシリーズでは日本語を教えることの方法を紐解いていきます。
今回のテーマは【自己紹介】です。
〈模範例としてのスピーチ〉
はじめまして。
私は楠田俊之です。
会社員です。
日本語の教師です。
39歳です。
東京生まれです。
趣味はサイクリングと読書です。
どうぞよろしくお願いします。
さあ、勉強を始めましょう。
上の例のように学習者が話せたら目標達成です。
【文型】は以下の通りです。
■○○は、・・・です。
【ワンポイント・アドバイス】←勉強のハウ・ツー!
リピートを使いましょう!
話してほしい日本語の言葉(日本語の文)を、
①教師が話します(=勉強する人に聞かせます)
②勉強する人に真似してもらいます(=教師と同じように話してもらえたら合格点の授業だと思ってOKです。コピーから始めましょう)
上手な日本語の発話へ自然な流れで会話を誘導することはプロの教師ならではの至難の業です。
まずは第一歩、真似してもらうことからやってみましょう。
学習項目の原稿を読み合わせすると思って取り組めば良いです。
その学習活動の中で身振り手振りを使って、表情を使って、お互いの間に何かしら相互の了解事項としての[合図]が決まると素晴らしい教室活動の形だと思います。
こうしたらリピート、
こうしたら応答、など。
私たち日本語のネイティブは高文脈文化の日本語(つまり言語情報以外から知り得る情報にコミュニケーションの多くを任せるタイプの言語的環境)を普段から使用しています。日常的に、リラックしていつも通りのあなたの仕草で良いのです。
ちなみに、授業中の合図としては相手の言語に合わせて外国語を使ってサインを出すことも勿論問題ありません。
※日本語の授業中には「聞く」→「話す」音が殆ど多くの割合で日本語だけになる。これは理想形として頭のどこかに入れて授業に臨みましょう。勉強が重なるほどに実践できることです。最も大切なのは〈学習者が集中して勉強できること〉ですから「分かるように!」というのはすごく重要なことです。難しいところですが、はじめのうちは、、
■外国語でのレクチャー(講義的授業)
↓
■日本語でのトレーニング(実戦的教室活動)
このようにメリハリをつけたレッスンが学習者にとって分かりやすいことかもしれません。
環境づくりにこそ教師の配慮が表れると思います。
①はじめての挨拶
教師:はじめまして
↓(ジェスチャーで示しながら発話を促して)
相手:はじめまして
これでOKです。声をよく聞いて・・・、音が大きくずれていれば[vol.0]の記事を参考に何回もリピートをしてもらって修正しましょう。
②名前
教師:私は、(相手の名前)です。
↓(同様にリピートを促して)
相手:私は、(自分の名前)です。
※相手の名前が無いと分かりにくいですので、ここでは仮に「ナオミ」さんという学習者に日本語を教えているとしましょう。
もう一回、、、
教師:私は、ナオミです。
ナオミ:私は、ナオミです。←1st step:読み合わせ段階ok
教師:OK!じゃあ、、「はじめまして!」
ナオミ:はじめまして!←2nd step:リピートが自然な会話になるパートです。これもok
教師:私は(自分の名前)です。あなたは?←※急に新出語「あなた」を出してみました。「あなた=学習者自身」が流れから理解できるようなスムーズな言語学習環境にお互いの意識がリンクして没入できていたら素晴らしいコミュニケーション力だと思います。
ナオミ:私はナオミです。←setp 3rd:応答の形ok
上の会話例のように出来たらオーケーです。続けましょう。
(例えば、)教師が自分の胸に手を当てて自身を示して↓
教師:会社員です。[あなたは?]←上のパートと同様にサインを出します。(※このような種類のサインを以下の記事では「キュー」と呼びます)
ナオミ:会社員です。←step 4th:[会話の型]が繰り返されました。表面上は応答のように見えますね。練習として十分にokです。
このように応答が繋がったら、相手との共通の感覚が学習空間に生まれているに違いありません。この環境を維持できることがほとんど全部〈外国語教師〉の技能と言ってしまっても過言ではありません。
集中してお互いの意識が向かい合っている感覚を保ちましょう。
どのような相手でもよく見て耳を澄ませて、お相手の意識や心、気持ちを理解しようと努めましょう。〈分かること〉です。相手が気持ちよく日本語を口から出せるように自然に会話のバトンを渡してあげるのです。
少し感覚的に言いますが「気を合わせる」ということです。
どんどん続けましょう。このような深い集中力はそう長く保ちません。外国語の教室では円滑さを伴った速度も命です。
教師:日本語の教師です。
ナオミ:エンジニアです。←step 5th:教師の意図を理解した返事が返ってきました。日本語が限定的に話せています。okです。
・・・以下、同様に繰り返します。繰り返しと模倣が外国語の学習です。オリジナルとか個性といったものは習熟の後に創り出されます。もちろん、ネイティブが聞いてすんなりと理解できる日本語の’お約束(ゆるやかな法則)’の中で、です。
ところで既にお気づきだと思いますが、
■日本語教師はほとんどボキャブラリーを使うことが出来ません。
最低限に言葉を抑えて話しましょう。学習者が余裕を持って頭の中で暗記できる単語量に限定します。それは概ね何も分からない人が「・・〜☆■・・」と何かしらの言葉を聞いて’ピン!’とくるだろうと予想できるボキャブラリーの中で授業を組み立てるということです。
そうして話していると自然にニコニコするフェイシャル・コミュニケーションの時間が多くなると思います。これは良いことですが、注意すべきは必要に増して「へりくだる」ことのない態度を取ることです。
私は学習サポート(つまり授業の運営)を極一義的に言い表すならば「カスタマー・サービス」だと思っています。
お客様にはもちろんのこと丁重に対応します。おもてなしも結構です。しかし不必要な笑顔は不自然なコミュニケーションですし(会話をする時に一貫して笑顔を固定している人はいないでしょう?)、時にあらぬ誤解を招くものです。
教師は自身の一挙手一投足を、学習者が〈日本人のモデル〉として注視していることを意識しましょう。
尚、上の単語を絞るお話の続きですが、学習者が想定外の単語を使用して発話した場合には、
■正しい言葉の場合、訂正は不要です。褒めて既習語としてメモして続けましょう。
■実際の日本語会話で問題にならない単語の場合、やはり訂正は不要です。同様に扱いましょう。
■不自然な日本語あるいは失礼な日本語であった場合には、元々想定して用意していた単語に修正しましょう。※単語部分を入れ替えて発話をリピート練習→再度の(模擬的)ロールプレイへ、これでOKです。
具体的には、
【会社員です】と設定された目標に対して、
◯「サラリーマンです」←OKです。
◯「エンジニアです(専門的職業名)」「ビジネスパーソンです」←この程度の差異は第一回の日本語のクラスとして許容しましょう。頭を使って学ぶべきは他の箇所に用意したいからです。外国語の勉強ってすごく頭を働かせて、多くには手が回らないものです。
✗「経理です」「プロジェクトマネージャーです」←不可です。訂正しましょう。基準は担当教師が判断するしかありませんが、普段日本人としか話していない人が「えっ?」と思う言葉はNGです。
✗「社員です」←この場合は語彙用法のミスです。笑顔でやんわりと「かい社員(=会社員)」と言い直してリピート訂正したいものです。
ところで、名前以外の文には「私は、」を省略しました。
「(私は)、会社員です。」ということですね。
実際の会話を想定した場合に聞いてみて不自然になるような主語部分はどんどん省略しましょう。
スッキリして覚えるのにも良いのです。
しかし、学習者が学習者母語で翻訳して理解しようと試みている場合など頑固に「私は」が取り除けない場合があります。このようなケースは多いのですが、「早い段階での日本語的応答を目指してカリキュラムを進んでいく」とだけ覚えましょう。
今回の段階での訂正や注意喚起は不要です。
さて、【自己紹介】の項目の中には語彙の知識が無いと答えようのないものが含まれますね。これらのジャンルの言葉はお勉強として、リストなど用意して学びましょう。外国語を使ったり、絵を使っても良いですし、できるだけ勉強する人の理解が正確になる方法を実践しましょう。
※例えば「ゲーム」とだけ言えばスポーツなのかテレビゲームなのか分かりませんね。
●数を数える
最低限の範囲で覚えましょう。
1(いち)、2(に)、3(さん)、4(よん)、5(ご)、6(ろく)、7(なな)、8(はち)、9(きゅう)、10(じゅう)、11(じゅういち)…
最初は20くらいまで数えられたら、その後は教師の年齢や、学習者自身の年齢を書いて、読んでもらいましょう。
1さい(いっさい)、2さい(にさい)、3さい(さんさい)…
年齢を言う時は、数字の後ろに「さい」を付けなくてはなりません。
1さいは「いちさい」とは読まずに、「いっさい」と音が変化します。
8さいと10さいも同じですね。1~10まで練習し、学習者の年齢や身近な人の年齢が言えるようになれば良いでしょう。
sample 私は30さいです。
sample 娘は2さいです。
●国と都市の名前を知る
外国語と互換性の低い語彙が日本語に案外に多く用いられています。
中国、韓国、イギリス、ドイツ、オランダ、フランス…
ペキン、ローマ、モスクワ、パリ、ロサンゼルス…
「ドイツ」を「ジャーマ二ィ」と言っても通じるかもしれませんが、日本人がパッと理解しやすいのは、やはり「ドイツ」ですよね。
自分の国や町、日本の有名な都市を日本語の発音で言えるようにすると日本人とのコミュニケーションがスムーズになります。
国旗のイラストや世界地図を用意して示していくと覚えやすいですね。
sample 私はイギリス人です。
sample 私はパリから来ました。
●趣味に関する言葉を知る
シンプルに言い表せる最低限の便利な言葉を押さえましょう。
カラオケ、ダンス、映画、絵、読書、スポーツ、ジョギング、散歩、買い物、料理…
語彙リストに載せていないものでも、学習者からさまざまな趣味が出てくるかと思いますので、なるべくシンプルで自然な日本語になるように、単語を教えましょう。
sample 趣味は、カラオケです。
sample 散歩が好きです。
実際に日本語を教えてみると学習者からいくつも質問が出てくると思います。
「どうしてこんな事聞くんだよー」
「こんなの簡単には説明できないよ!」
「教師むり!」
と思うことが早い段階からあるかもしれません。
余裕がない時ほどニッコリと笑いましょう。自分の知識にない場合や自信がない場合には「ちょっと待って」と断って堂々と調べて(検索して)ください。
問題ありません。
慌てる、不備を隠そうとする、不機嫌になる(困ると誰でも怒りたくなります)、これらの対応は不信感を招きます。不信感とは「教師と勉強する意義」の喪失です。真摯に出来得る限りの行動で対応すれば良いのです。冷や汗の量=教師の練度かもしれません。
それでは、実際にどんな質問が学習者から飛んでくるのか、少し体験してみましょう。
初級学習者からは、よくこんな質問が来ます。
Q:「先生」と「教師」は何が違いますか?
さあ、あなたは何と答えますか。
一瞬ドキッとするかもしれませんね。
どちらもティーチャーと言えばそうなんですが、この二つの単語は全く同じでしょうか。
例えば、自分の職業を表すとき
〇 私は教師です。
〇 私は先生です。
どちらも何かを教える人を指していて、同じ意味になりますね。
この場合はどうでしょうか。
〇 田中先生は、学生に人気があります。
上の「先生」は「教師」に置き換えられないことに気が付きましたか。
「教師」というのは、職業の名前を指しているので、呼びかける時には使えません。
また、「先生」というのは話し手がすごい!尊敬する!と思っている相手に使える呼称です。ですから、学校の先生以外にも、医者や弁護師、小説家、政治家などを「先生!」と呼ぶことができるんですね。
このように、学習者からは私たち日本語ネイティブが今まで考えたことのないような日本語の質問がどんどん出てきます。
学習者の気持ちになって日本語を見つめ直してみると、意外に面白い発見があったりしますね。
さあ、最後にまとめます。
はじめまして。
学習者:はじめまして。
私は楠田俊之です。
学習者:私はナオミです。
会社員です。
学習者:会社員です。A社の社員です。
日本語の教師です。
学習者:エンジニアです。アプリ開発です。
39歳です。
学習者:23歳です。
東京生まれです。
学習者:アスンシオン生まれです。
趣味はサイクリングと読書です。
学習者:趣味はサッカーです。
どうぞよろしくお願いします。
学習者:どうぞよろしくお願いします。
このように会話が完成できれば今回のカリキュラムには学習の完了です。日本語としての不足点をお相手の言葉に感じると思います。良いのです。今回はここまで、十分です。
授業の積み重ねの上に私たちのイメージする日本語に近いものが形作られていくのです。
日常の挨拶についても授業の最後にまとめておくと良いと思います。
●日本語の挨拶の第一歩
朝:おはようございます
昼:こんにちは
夜:こんばんは
食事の前:いただきます
食事の後:ごちそうさまでした
お礼:ありがとうございます
お詫び:すみません
職場で…
帰るとき、電話を切るとき、上司の部屋に入るとき:失礼します
同僚や上司に会ったとき:おつかれさまです
本日は日本語を外国の方に教えるための第一回【自己紹介】を取り扱いました。
学習分量として十分に重みのあるサイズだと思います。
実戦では想定外のことが起きて、教師としても日本語のシステムや外国の方の考え方に驚かされることが少なくありません。
工夫してより良い授業を組み立てましょう。
まずは準備をすることです。
話せる言葉、教えるべき言葉を整理して覚えて、シミュレーションしましょう。
困ったことがあれば日本語ラーニングサポートLLCにお問い合わせくださいね。
教室の設立以来、母国語の別や背景の違いを問わずに世界中様々な地域からいらっしゃる方々のために日本語の指導にあたってきた経験と、その中で積み上げられた確かな技術知識に自負をもってお応えいたします。
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