「寿限無」という落語を読んでみましょう。

2022/11/22 ブログ

落語を読んでみましょう。

日本の落語は難しいというイメージがあるかもしれませんが、実は絵本にもなっていて日本の子供たちは小さい頃から落語に触れています。

みなさんにもリラックスしながら落語を楽しんでいただきたいなと思い、今日は「寿限無(じゅげむ)」というお話をご紹介しようと思います。

 

「寿限無」

ある夫婦のところの赤ちゃんが生まれました。

「あんた、赤ん坊の名前はもう決まったのかい?」

「いやあ、まだだよ。さて、どんな名前を付けたらいいのか。俺が八五郎だから、九六郎なんてどうだ?」

「そんないい加減な名前よしとくれ。だいいち、くろうろうなんていかにも不幸が訪れそうな名前じゃあないか。あたしゃ、もっと長生きができて、食いっぱぐれのねえ名前を付けてやりたいんだよ。」

「じゃあ、お寺の和尚さんに付けてもらおう。」

そんなこんなで、次の日の朝さっそく旦那は村のお寺の和尚さんのところへ行きまして、

「ごめんください。和尚さん!いますか?」

「おやおや、こんな早くからなんのご用かな?」

「実は子供の名前を付けていただきたんですが。」

「ほうほう、それでどんな名前がいいんです?」

「かみさんが言うにゃ、長生きができそうで、おめでたくって、食いっぱぐれのない名前がいいんだそうで…そんな名前ありますか。」

「そうかそうか、こんなのはどうじゃな?鶴は千年生きるといいますから、鶴之助、鶴太郎なんてのはいかがかな?」

「千年しか生きないんじゃかわいそうだ。もっと長生きできる名前はありませんか。」

「千年で足りないなら、亀は万年というから、亀之助、亀太郎なんて名前はいかがかな?」

「万年で死んじまうんですか…。うぅうぅ…それじゃあ子供がかわいそうだ。和尚さん、そんな期限付きの名前なんてのは縁起が悪いや。無期限の名前ってのはないんですか?」

「うーん。おお、そうじゃ。寿限無というのがある。」

「じゅげむ?毛虫ですか?」

「そうではない。寿限無というのは無期限の寿命という意味だよ。」

「そりゃあ、ありがたい。他にはありますか?」

「五劫の擦り切れというのもあるぞ。」

「擦り切れちゃったら、なんだかかわいそうな気がするんですが…」

「五劫の擦り切れというのは、果てがないという意味じゃよ。」

「さすが和尚さん、いろいろ知ってますね。他にはありますか?」

「海砂利、水魚というのがある。」

「かいじゃり?なんじゃそりゃ。」

「海の中の砂利、魚の数には限りがないということじゃ。」

「確かにそうだ。」

「水行末(すいぎょうまつ)、雲来末(うんらいまつ)、風来末(ふうらいまつ)というのはどうじゃ。水の行く末、雲や風の来る末はみな果てしない。」

「いよっ!もう一声!」

「うーん。そうじゃな…。人が生きていく上で大切なものといえば、食う寝るところに住むところじゃな。これが備わるということはとてもありがたいことじゃ。」

「かみさんもそんなこと言ってたな…。」

「藪柑子(やぶこうじ)という植物もある。昔から百両金を表す印として用いられてきた、おめでたいものじゃ。それから、昔パイポという国があってな。そこにシューリンガンという王様とグーリンダイというお妃があったそうじゃ。その間に生まれたポンポコピーとポンポコナーという二人のお姫様、これがたいそう長生きしたそうじゃ。」

「ぽんぽこってなんだか楽しそうだ。他にはありませんか?」

「わかりやすいところで言えば、長く久しい命と書いて長久命(ちょうきゅうめい)。これはなかなか良いぞ。」

「やっと名前っぽくなってきたぞ。」

「長介(ちょうすけ)なんてのもいいぞ。」

「ほうほう。いやあ、たくさん考えてもらってありがとうございます。じゃあ、それらを全部紙に書いてください。うちへ持って帰ってかみさんに見せます。」

そうして和尚さんに考えてもらった名前を全部おかみさんに見せて相談しました。

「おい、見ろよ。こんなにたくさん考えてもらったぞ。」

「まあ、ずいぶん長いねぇ。」

「でも、こんなにありがたい名前の中から一つ選ぶなんて俺には無理だ。いっそ全部名前にしてしまおう。」

「ええ、ちょっと長すぎやしないか?」

「少しくらい長くたって、いい名前を捨てちまうのはもったいないや。」

そうして、やっと子供の名前が決まりました。

ですがまあ、やっぱり名前の長さはほどほどが良いようで、ここの家の子は名前を呼ぶのもあやすのも苦労します。こんなに長いんですから、短くして寿限無ちゃんと呼んでもいいような気がしますが、そこは子供の名前ですからしっかり最後まで言わないといけません。

親戚のおじさんおばさんが、

「ほーら太郎。いないいないばあ。」

なんて、あやしたら太郎ちゃんも笑ってくれましょうが、ここのうちの子はそうはいきません。

「ほーら、寿限無、寿限無、五劫の擦り切れ、海砂利水魚、水行末、雲来末、風来末、食う寝るところに住むところ、藪ら柑子のぶら柑子、パイポパイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長介ちゃん、いないいないばあ!」

「あれ?もう寝てる…?」

 

いかがでしたか。

くすっと笑える「寿限無」という落語をご紹介しました。

これを機にみなさんにも日本語や落語に興味を持っていただけたら嬉しいです。もっと落語が読んでみたいと思った方は、他のブログでいくつか紹介していますので、そちらも是非ご覧ください。

落語「ムカデのおつかい」のエピソード↓

https://nihongojikan.jp/blog/20220816-3952/

落語「まんじゅう怖い」のエピソード↓

https://nihongojikan.jp/blog/20221202-4008/

それでは、またお会いしましょう!